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二人の視線が、暗に大丈夫? とさぐるようにあたしの瞳を覗き込む。
あたしは小さく首を縦に振る。
なんだろう。
一澤くんがあたしに用事だなんて。
高校一年も終わりに近づくと、一部の華やかな生徒は、山の頂(いただき)のようにどこにいても目に付く存在になる。
気になる、というひいき目をさしひいても、一澤くんはそういう生徒の一人であることは間違いない。
授業の直前で、廊下にすでに人はいなかった。
生徒がひけて、先生が来るまでのほんの短い静寂の中、一澤くんはあたしを、階段わきの四角く引っ込んだスペースに誘(いざな)った。
校舎のほとんど先端で、ここは廊下からは完全に死角になる。
「お前、何様のつもりだよ!」
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