『未来エミュレーション』

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 奇術の始まりはたった1通のメールだ。 『2043年の2月12日18時。君は、前日に亡くなったという事実の前に、まず茫然とする』  確かに未来からのメールは当たっている。  当たっているが、一つだけ間違えていることがあった。  男は、このメールが届いた現在、2月12日の18時の時点では茫然とはしていない。  むしろ歓喜に打ちひしがれていた。  強いて言うのであれば、メールの日付が1日遅い。精度の問題だろう。  2043年の2月12日ではなく、2月11日にこのメールが送られてくるべきだろう。    そう、男の茫然自失状態は昨日で終わっていたからだ。  確かに予言通り亡くなった。男の最愛の妻が。  ガンの特効薬はあるが、人間の身体は案外もろい。  肺炎を患わせて死ぬなんて、間の抜けた話だと2015年辺りの人間は思うかもしれない。  男にとっては狂気の実験の祝福すべき結果=妻の死。
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