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その部屋はコンクリむき出しの一室だった。
デザイナーズマンションでもない、山間の古家を改築しただけの簡素なつくり。
しかし、超精密PCの集合体が山のように積まれている部屋は隣にあった。
国の政策で費用は出ていたが、作業スペース重視で生活感のある空間を作ろうとは思わない。
それが男が真の研究者たる証拠かもしれない。
男はもう一度未来メールを読もうとPCモニタの送信ボタンを押す。押すと言っても物理的な行動は一切しない。
やり方は簡単だ、頭で念じればいい。
先進時代においては『PCマウス』など過去の遺物。
脳内に埋め込まれたハイ・テクノロジーのCPUは人間の感情と連動しているのだ。
全世界の人間がIT技術を享受する為、生まれた時から小型のチップを頭に入れられている。
今や物理的にPC操作をするなんて、効率を考えて行われることは滅多に無い。好きな人間はマウスを使う、ただそれだけだった。
一世代前のプリンターから一枚の紙が排出された。
『2043年の2月12日18時。君は、嬉し涙を流している』
その文字を読んで、男はせせら笑った。
素晴らしい、なんという結果だと言わんばかりにデスクをバンバンと叩いた。
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