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圭吾はニコッと麗に微笑みかけると、ビシッと敬礼をした。
「こんにちは、麗さん。今日も美しいですね?」
「ははは、いやいや。お世辞の上手いぶちょーさんですね。今日はどうしたんです?」
そんなやりとりを二人がしている間、京は無言で玄関の隅に逆さ箒を立てかけている。
「麗さんに会いにーーいや、なんでもないです。麗さん、後ろの彼どうにかしてもらえます?なんか逆さ箒とか塩とか‥‥全力で追い返す気満々じゃないですか。」
圭吾が苦笑いしながら京を指差すと、京はしれっと言い放った。
「悪霊が入ってこようとしているので、除霊を試みているのですが、なかなかに強い霊みたいですね。札を貼りましょう。額に。悪霊退散!」
「こら、京!北野刑事はキョンシーじゃないから!ここ中国じゃないから!」
「え、僕、キョンシーに例えられてるんですか?」
いつもの仏頂面を通り越して、まるで殺人犯のような顔をする京にチョップをかます麗、唖然とする北野という不思議な光景が出来あがったが、すぐに北野が話題をそらした為、なんとか元に戻った。
「冗談ですよ。実は僕、仕事後に巡回していたのですが、この周辺で不審な人物を発見しまして。ヤク中みたいな虚ろな顔をしてぶつぶつ言いながら歩いていたもんで捕まえたんですが、どうも様子がおかしくて。見ていただけますか?」
「?いいですよ?中へどうぞ。」
圭吾の言葉に麗と京は気を引き締め、中へ通す。
「失礼します。ほら、中へ。」
圭吾が後ろを振り返り、1人の人物を招き入れた。
圭吾の言葉で中に入ってきたのは、ボサボサの金髪に黒いダウンコートとジーパンを身につけた痩せ型の男。目は圭吾が言っていた通り虚ろで、顔の肉もそげており、年齢はまだ若いのかもしれないが、それのせいで酷く老けているように見える。
それよりも、麗と京が注目したのは、その虚ろな視線の先、手の中にある、【魚の形をしたオブジェ】であった。ある程度形は出来ているが、尻尾の部分がまだ胴体にはまっておらず、彼はぎこちない手つきでその尻尾を左右に動かしていた。いや、違う。
‥‥何か見えない力に抗うように、尻尾を胴体から離そうとしていたのだ。
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