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緑地公園は色とりどりの花で溢れていた。
さすがは管理の行き届いている施設だ。
目にも鮮やかな花たちが視界一杯に広がる様は確かに圧巻なのだけど。
なんとなく、ケーキのショーケースを思わせた。
華やかで色彩に溢れ、所狭しと並ぶ感じ。
間隔を空けて、ぽつりぽつりと色を添える自生の花の方が、和菓子に近いように思えた。
沢山の目に触れることはない山の中の植物。
当たり前すぎて目にも止められない路傍の花。
だけど、それぞれに咲き誇り、懸命に命を繋ぐ。
カラスを案内しながら、スケッチしたいと思う花を探した。
可憐な花が良い。小さくても構わない。
練りきりで表現できる、華美とは違う存在感がある花……。
「俺も描いてみようかな」
カラスの呟きに、リュックからスケッチブックと色鉛筆を取り出した。
「先に描いて良いよ。ここには描きたい花がないから」
描こうかな、なんて言った割に、カラスは花には目もくれず、渡したスケッチブックをパラパラとめくり、以前描いた絵を眺めている。
「いや、あんまり見ないで。恥ずかしいから」
私の抗議をまるで無視して、カラスはページをめくっていく。
丁寧に、一枚一枚吟味するように。
そしてふと顔を上げた。
「ここじゃない気がしません?」
え?
「案内してもらって嬉しいし、確かに綺麗なんですけど。
描くならここじゃない気がする」
カラスの目に写るのは、整然と並んだ花壇。
圧倒的な数の色。
モチーフなら沢山ありそうなのに。
……私と同じ感覚でいるの?
嬉しい。
沸き上がってくる感情。
感性が噛み合うって、なんて心地良いんだろう。
私は興奮を抑えつつ、カラスに提案してみた。
「移動する?いつも行くのは近くの山なんだけど。
歩き回るの平気?」
彼は薄く笑った。
「良いですね。たまには運動しないと。
日頃家にこもってるから」
結局私たちはあっさり緑地公園を後にし、ホームセンターでスケッチブックと色鉛筆を購入して山に向かった。
相手を見失わない程度の距離で、それぞれ好きなように花を写しとる。
ふとカラスを見ると、一心不乱に色鉛筆を動かしていた。
良かった、楽しそう。
負けないように、私も鉛筆を走らせた。
時間も忘れ、一人の世界に浸る。
相手を気遣わなくても良いのが楽だ。
山の自然に身を預け、私たちは命の輝きを心の動くままに写し続けた。
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