四季を作る手

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あれから二度ほど、私とカラスはスケッチに出掛けた。 最初は小学生の絵か?と思ったカラスの描く花は、デフォルメされていてもしっかり特徴をとらえるものになってきた。 相変わらず「上手」とは言えないけれど。 世はゴールデンウィークに突入した。 サービス業には連休など関係なく、さらにはイベント用の菓子の準備に追われて、てんてこ舞だった。 天気予報では野点の日は快晴。 開催時間は朝10時から4時までの6時間。 去年は徹夜の勢いで菓子を仕上げた。 それでも足りなくて、店にあった落雁や仕入販売をしている金平糖を慌てて届けたくらいだ。 今年は少し多目に作ることになったが、職人が増えたことだし乗りきれるだろう。 町でのお祭りなので単価は落ちるが、数が数だけに大きな売り上げになることは間違いない。 野点の前日、店は臨時休業となった。 職人たちはひたすら餡を炊き、餅粉を捏ねた。 形を作り始めてしまえば、ばんじゅう(餅を並べる浅い箱)にどんどん並べていくなどの仕事があるが、それまでは手伝えることもほとんどなく、何かしようとすると反って邪魔になるだけなので、日中友人とランチすることにした。 博子と綾。 小さい頃から仲良くしている。 博子は地元の地方銀行に、綾は国産車のディーラーで事務や接客の職についている。 カレンダー通りの博子、月曜が休みの綾、火曜が休みの私。 見事にばらばらで、ランチが楽しめるのは盆暮れ正月くらいのものだ。 美味しいと評判のイタリアンレストランで、1人2000円のパスタランチ(私にとっては贅沢)を堪能し、ドルチェに舌鼓を打っている最中だった。 「黙っててもいずれ耳に入るだろうから教えとくわ。 ……かっちゃん、結婚するらしいよ」 「……ふうん」 綾の言葉に気だるげに反応を返し、コーヒーに砂糖をいれてかき混ぜた。 「あれ、リアクション薄いじゃん」 博子がティラミスをつつく。 「まあ、もう半年経ったしね」 コーヒーを口に含む。 ダメだ、まだ苦い。 もう一つ角砂糖を入れる。 前田 克之……かつての恋人。 半年前に別れたのに、もう結婚か。 少しだけ心がささくれ立つ。 「なんで綾が知ってるの?」 「この間ファミリーカー見に来たから。 7月にはパパになるんだって」 綾は忌々しげに、平たいデザートスプーンをザッハトルテに突き立てた。
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