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店の朝は早い。
毎朝六時過ぎには朝食を終え、父は作業場に入る。
「女子作業場に入るべからず」
そんな言葉があるかどうかは知らないが、うちではここは男性ばかりの聖域だ。
父や数人の職人が繊細な手つきで命を吹き込んでいく様子を、作業場の片隅でじっと見つめる。
餡をくるみ、丸め、様々な道具を駆使して形を作る。
季節によって素材も形も色合いも変わる小さな小さな菓子たちは、その存在だけで日本の美しい四季と伝統の重みを伝えた。
和菓子
見るのも食べるのも大好きだ。
職人たちの手によって生まれる四季折々の菓子は、見ているだけで私を幸せにする。
生まれたときから餡を炊く甘い匂いに包まれていた。
父が京都を離れ、水と空気が美味しいこの山間の町に店を開いたのは、姉が生まれてすぐの頃だった。
家族の生活環境のためではない。
ひとえに菓子に掛ける情熱のためだ。
小豆にこだわり、それを炊く水にこだわった。
材料は国内産、和三盆も蕨粉も厳選されたものだ。
父は絶対の自信を持っている。
この界隈では、といっても和菓子業界に限られるが、父はそこそこ名を馳せているらしい。
それでもその情熱がこの地に根付くまで、それなりの時間を要したそうだ。
定着した今も、年を追う毎に考えさせられることがある。
友人宅に行く際、手土産にケーキというのはよくあるが、「和菓子でも買っていこう」と思うのは稀だろう。
甘くてふわふわしていて、飲み物の選択肢も広い洋菓子。
見た目だって、スッキリ洗練されたチョコレートケーキや、きらびやかなフルーツタルト、真っ白に赤が映えるショートケーキなど、見るのも選ぶのも楽しい。
和菓子も負けてはいないが、きらびやかさには劣る。
情緒という点においては洋菓子には絶対負けないし、原材料は洋菓子に比べて圧倒的にヘルシーだと思うが、現代ではそこに興味を持つ人も減った。
時代の波とでもいうのか、和菓子業界はそれに圧されて安泰というわけではない。
日本の伝統的なものが需要や後継者不足に追われて存続の危機を迎える中、それでも和菓子が踏ん張っているのは、「食」に関するものだからだろう。
たまに「全盛期には○○軒あった△△も、今や□軒となってしまった」という日本の伝統的産業や文化に関する情報を耳にすると、心が痛む。
……だからといって私にはどうすることもできないのだけれど。
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