君を追い掛けて

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再び、顔はベールに包まれると少女は何時の間にかフッと視界から消えていた。その辺りを視やるも姿は無く、唯一の手がかりだった頭上を仰ぐ。目の前には潜水船が岩肌に衝突する光景が広がり、思わず悲鳴を上げながら沈み行く其を全身を震わせて見下ろす。 何かを引き摺る、ズザザザザッ。と響く音にその原因を探るも、恐怖で足がすくみ動く事も出来ない。況してや殆どを音元に気付かないふりをするのに精一杯で思考は上手く回らなかった。 嗚咽を漏らし、その場にゆっくりと膝を着いて泣き崩れる他に選択肢も無く。不安と深い絶望に苛まれて、自暴自棄気味に笑う。 断崖絶壁の間に挟まる、その小型な船体は最早使い物にさえなりそうも無く途方に暮れては救いが来る等と淡い期待を抱く。 落下する直前、確証は無いが中は無人だった気がした。恐らくは船内から投げ出され、こうして私の様に迷っているに違い無い。 「でも、何で海中なのに息が出来るんだろ?」 (空気も澄んでるし、何処かから送り込まれてるみたい) ふいに、臨場感あまりに忘れ去っていた重要な事に気付き出し。涼夏は何度か辺りを見回した、暫く訝しげに散策していると次第に冷静さを取り戻して行く。 砂浜にも似た感触を、素足で踏み締めている。砂粒は硬く足に時折張り付き、砂利混じりの為に爪先に痛みを覚えて堪えきれずに小石を手で払う。 パラパラと散る、砂を落としながら駆け足で海底を歩くが一周はしきれずに終いには疲労感に押し潰されてしまった。 息を切らしかけ、呼吸を整えながら大きく声を吐き出してみる。しかし返事は無くただ海草から吹き出す泡が、酸素をブクブクと音を立てて作り出していた。 此により漸く解る、特殊な海草は大地の緑と全く同じ効果をもたらしていたのだ。木々は酸素を作った、つまり海底に空気を送っていた様。 淡い青色の海は、遠くの空に浮かぶ陽光を浴びて明るい色彩を作り上げていた。幻想的なのは、色様々な虹が海中をより美しく照らしている。 皮肉にも、景色は綺麗なのに響を拐ったのもこの壮大に広がる海底だった為に何だか複雑だ。 「素直に、綺麗だと言って良いのかな。皆はこの海中の何処かに居るのに……」 居る、その形は正しくは有るなのかも知れない。つまり生存した状態で無く、動かなくなった其を最悪の場合確認しなければならなかった。 責めて、三人が居てくれたらきっと落ち着いていられた筈。
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