君を追い掛けて

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死した屍を拾うべからず、何かの時代にそんな言い回しがあった。万が一の時には死体を海上まで持って行き、陸に運ばなければならなくなる。 そんなまさかの事態には、正直成って欲しくはないし帰り方さえ判らない状況でこんな暗い話しすら想定したくも無い。 憎たらしい海を睨む様見上げ、途方に暮れながら四人を探す。操縦士と海都、其れに響と後一人の少年を探さなければ。 空ノ咲十夜(ソラノサキシュウヤ) 彗星の降る夜に生まれたらしく、まさに星に恵まれし子と言う意味でそのままの名が付けられた。 そう言えば忘れていたが、彼も潜水船に乗っていた筈だ。けれど可笑しい、本当に乗り込んでいただろうか。 確証が、何故か無い。 そもそも、海都の側に居た少年の性格や顔は服装が判らなかった。否、見覚えも無いと脳が否定している。 明らかな疑問点に、涼夏は困惑し出して再び駆け出した。だが終わりの見えない道筋に、いくら経っても目印何て無い海底に最早嫌気が差す。 「あれ、十夜……?」 「涼夏も生きてた!良かった。僕も何とか無事だよ、後の海都は……」 チラリと、自身の背に視線を移す。彼は眉を潜めながらその見覚えのある少年を足元に下ろし、両手で顔を覆いながら。この通りさ、と小さな声で呟く。 外傷も何も無い、その横たわった遺体は蒼白な顔をしたままに固く瞼を閉じていた。 触れてみて分かったのは、氷の様に冷たい手だと言う事。私は見つめては涙を流しながら、十夜を視やり唇を噛み締める。 右手に、大きな切り傷を負っている幼さの残った顔立ちの少年は必死に泣くのを堪えていた。無理も無かった、私達は幼なじみとして昔からよく一緒に遊んでいたのだ。 馴染みの友人を失うも、十夜は悲しみに暮れながらも必死に此所まで歩いてきた。その優しさはきっと、彼も幸せだっただろう。 よく見れば、口端は両側が口角を自然の形で上げたままに笑顔を浮かべている。 「涼夏が泣いたら、僕だって悲しくなる。止めてよ……」 「っ、ごめんね。十夜は偉かったよ、本当によく頑張ったね。生きてて良かった……」 頭を撫で、同い年なのにも関わらずまるで弟扱い。けれど少年は怒りもせずに、堪えていた筈の涙を眼に溢れさせた。 死体とは言え、置き去りには出来ない。十夜は頭を撫でていた手を払い、照れた様に赤面して海都を背負い直す。 「重く、無いの?」 「大丈夫。僕は平気だよ」
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