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本当は重い筈なのにも関わらず、平然を無理やりに装う少年は微妙に眉根を寄せていた。華奢で細い手足と言った等身と低めの背丈で、海都の足を地に引き摺りながらも必死に歩みを止めない。
一見すれば、他人からしてみると女の子にも見間違え兼ねないかも知れないその後ろ姿。銀色の短髪、服装は薄手の紺色のVネックシャツと白い短パンを履いている。
地を蹴り、砂粒が靴底に張り付くのも気にせずに懸命に歩いては息を切らしかけ十夜は顔を俯かせた。重い足取りのまま、ただ海中をさ迷う。
「……」
「あなたは?」
矢先、再び海底に浮かぶ白の少女が姿を目の前に現す。何かを伝えようとしているのだろうか、訝しげに首を傾げていると。
彼女はまるで魔法の様に、手から光を出現させて行く。沢山の色が海底を明るく照らし出し、唯一の道標となった。
灯籠に付けられた火、そんな雰囲気を思わせながら光は一本の道を作り上げる。少女は無表情のままに、ベールを顔に纏いながら此方を凝視して視線を道先へと示す。
涼夏は怪訝に、けれど響に会えると信じて少年を連れて光に続く道へと進む。少し歩いた所で、次第に神殿が見え出した。
白い柱に、若干草臥れた建造物自体は一つの女神像を祀っている。その光景はまさに、教会の様に神聖なる何かを感じてしまう。
「海底に神殿、これってまさか……」
「古代アランティ。そう言われているわね、初めまして地上の方々」
背後の気配、そして突然に話し掛けられ半ば狼狽え気味に私達は振り返る。其所にはあの少女が微笑みながら立っていて、咄嗟に身構えてしまった。
響を何処に拐ったのか、そう問いたいのだが彼女から漂う神聖さを思わす見えない威圧感に思わず身動ぎする。
目前の彼女は、白いローブを身に纏いながら女神像を視やった。そして神殿の柱を片手で撫で、深くため息を吐く。
あまりの美しさに言葉も出ない、十夜は最早虜になっているかの様ただ少女をじっと見つめていた。
古代アランティ、聞いた事が無い文明の名だ。涼夏は不思議に思いながらも、おずおずと口を開く。
「ね、ねえ。あなたは此所に住んでるの…ですか…?」
「敬語何て良い、私はあなた達とは。多分同い年でしょうからね……」
そう言うなり、少女は結局名前も告げないままに二人を神殿へと案内して行く。手には水中なのに消えない、松明を片手に暗い辺りを照らしている。
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