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闇雲に探せば、安易に見付かるとも考え難く涼夏は深い溜め息を溢す。チラリと横目で少年を視れば、十夜は惜しげに唇をぎゅっと噛み締めている。
あの崖に、もしもだ。気付かないままに落ちていたなら、私達に確実に生存の見込みは無かった。
仮に生きていたとして、瀕死までの重症を負いわざわざ苦しみを味わう事になる所だったのだ。後々に思い出し、今更ながらに恐怖が掻き立てられて行く。
深く、奥何て見えない崖の下には暗い闇だけが広がっていた。怖さあまり咄嗟に十夜を救ったが、あんな目に合いながらも少女を追わなければならない気がする。
理由も根拠も無い、単にもう二度と失いたくは無かったのだ。たった其だけの意思によって、涼夏の心は突き動かされた。
「冗談じゃないわ。こんな所に響を、あの少女は私物かしてるけど。彼は物じゃないんだから」
「大切な幼なじみを、きっと取り返そう。そしてまた僕等は沢山の事を知るんだ、その為には何としても生き抜いてみせなきゃね?」
悪戯っぽく笑い、彼は軽く茶化すもののそんな天然な性格に不思議と安堵してしまう。
明るい光が、階段上から差し込む。何処か暖かみを与える陽光に私は目を細め、嬉々としながら駆け上がる。踏み締める音は喧しく、辺りが空洞状態の為に反響した。
乱雑に散らばった石片は、どうやら神殿の塗装が剥がれかけている模様。
ふと、階段の脇に部屋を見付け中に入ってみる。電気は何とかスイッチを手探りした、点けるなり其所には質素なベッドの上に置かれた日記帳に目が止まり涼夏は徐に其を手に取る。
パラッ
頁を最初の一行目を捲った。
『アランティの一日目、此所はそう言う国だと……は言った。美しい少女はまるで天使にも見えた、彼女は名前も告げないままに軈て……を見殺しにせざるを得なく……』
日記は所々途切れ、滲むインクのせいであまり読めない。十夜は訝しげに顔をしかめて小さく、そうか。と呟くとその場に座り込んでしまった。
何か解ったのだろうか、はたとして私は少年に訊ねるも彼は首を左右に振り分からないと返事を返す。
しかし、これは良い手がかりになるかも知れない。日記帳が意味するのは、此の場所に過去に人が迷い込んだ事を示している。
「これ、持って行きましょう。多分脱出のヒントに……」
「奥にまだ部屋があるよ。とりあえず此方も視てみよう?」
涼夏は少年の言葉に頷く。
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