君を追い掛けて

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木製板が張り巡らされ、あちらこちらには木片が粉砕された形跡を残した室内。此所に長居はしたくはないものの、我儘を言っている有余さえ無かった。 何故なら、目の前には椅子にロープで拘束された人の原形を遺体と言う形で残した屍が放置されていた。 目玉すら腐敗し、全身は身を無くした骸骨が。心臓部を三本の切っ先のある槍で貫かれている、無残な其を目にして十夜はゴクリと固唾を飲んだ。 空洞状態の眼球部分は黒く、向こうの壁が穴から見える。涼夏は硬直としながら大きく悲鳴を上げて叫ぶ、途端に少年が彼女の視界を手で遮り急いで隣の部屋に駆け込む。 放心とする最中、懸命に背を擦る事で宥め様とする傍らに居た十夜を視やり。嗚咽混じりに私は涙を流す、慰めながら彼はそっと手を握り気持ちを落ち着けようとした。 「ねえ、あれってやっぱりあの子が……?」 「否。僕が見る限りだと、あれは少女自身だよ……」 つまり、彼女は何者かに殺されてしまい。その怨みが今も、この海底をさ迷っていると言う事なのだろうか。 実体の無い、残留思念が少女の原形を止めながら彼女は還れぬままに居る。だとすれば悪いのは、殺めた人物。 少女の正体は、永久に忘れ去られずっと孤独のままに冷たい海中を漂う霊なのだろう。 同情して良いものか、けれど関係の無い響を捲き込む必要が何処にあったと言うのかも判らない。 もしかしたら、彼女はただ遊びたかっただけなのかも知れない。 「日記帳か、此に手がかりがあると良いんだけど……」 パラッ 再び、頁の二行目を捲る。 『トライデント、此の武器さえあれば……を倒せる。けれど少女は犠牲になってしまう、なのにあの子は自らを盾に私を守った』 トライデント、三本槍の事だ。恐らく骸骨に刺さったあの武器こそが、何等かの手がかりに違い無い。 つまり、再度あの場所に行き屍を目撃しなければならないと言う事か。 涼夏は悩んだ末、自分から取りに行くと言い部屋に駆け出す。そして着くなり槍を取る瞬間だけ瞼を閉じ、強く手に力を込めて引き抜く。 矢先、突如腕に硬い何かが当たる。戦慄とする恐怖を覚え、私は声にならない悲鳴を漏らして腕を掴まれた。 「退け!」 『ヤメロ、触れるな』 槍を掴む、涼夏は其を声の主である少年に手渡す。瞬時に瞼を開け、その脅威を目に焼き付ける。 骸骨が、指先で槍を掴んでいた。
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