君を追い掛けて

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だがそこで、致命的な失敗に気付く。立っているのは十夜では無い、其所には響が居た。何処に行っていたのかと訊きたいが、今は此を倒さなくては。 恐る恐るハンドバッグから、懐中電灯を取り出し骸骨を照らす。確か光に弱い筈、そう思い試みると次第に其は膝を着き床に散らばった。 どうやら作戦は上手く行き、敵は消滅したようだ。安堵の息を吐き、彼に苦笑を浮かべながら涼夏は肩を竦める。 「響、心配したんだよっ。何処に居たの?」 「……」 槍を此方に、切っ先を向けたままに構える響を前に言い知れぬ不安が私を襲う。眼は虚に、ただ沈黙とする彼。 喋りもしない、まるで其所に有るだけの様な人形と化した少年が立ち尽くしていた。 次の瞬間、十夜が異変に気付き部屋へと入って来る。途端に響が振り返り、槍の刃先を彼に目掛け振り下ろし出す。 寸での所で、涼夏は槍を掴み何とか抑えながら蒼白とした顔色を浮かべる。その時に彼女は視てしまう、少年の瞳の変化を。 「邪魔だ、退け」 「どうしたの、その瞳……」 紅い、真紅に染まった血を帯びたかのような瞳は妖艶さを思わす。私は十夜に逃げてと、訳もわからずただ叫ぶ。 無我夢中で、少年を腕を掴み壁際に押さえ付けながら十夜を先に逃がす。 護身用にと、朝に兄からの手紙の真上に置かれていたスタンガンをバッグから取り出して涼夏は其を少年に浴びせた。 普通じゃない、この海底だからこそ感電は起こさずに済んだものの後はどうしたものか。 電撃がバリッと音を立てた。直後に気絶した響を、とりあえずは床に寝かせ素早く部屋を出て十夜の後を追う。 だが一応にと戻り、槍を奪い。余っていた床に落ちたロープで、椅子に何重にも其を括り付けた。 「響、ごめんね……」 後ろめたい気持ちになる、だが今は仕方の無い事。少年が正気に戻る迄、暫く此所に置いていくしか無い。 黙り込んだまま、ゆっくりと走り去った。駆け出すあまり息が切れかかり、呼吸を整えて階段を目指す。 軈て螺旋階段の前に着くと、十夜が眉を潜めて背を壁に寄り掛かって待っていた事に気付く。涼夏は手を振ると立ち止まる、そして乱れた息を整えた。 後ろに両手で隠したスタンガンを、そっとハンドバッグにしまうと近付き。苦笑い混じりに指を丸状にし、大丈夫のサインを示す。 其を合図に、少年は安堵の息を吐いて目尻に浮かんでいた涙を指先で拭う。
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