君を追い掛けて

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「涼夏、何の番組観てるんだ?」 「あっ、お兄ちゃん。今はニュース観てた、ほらこの船凄いんだよー!」 嬉々としながら言うと、兄は苦笑を浮かべて何かを考える様に顎に自身の手を添える仕草をして。暫くするとリビングを出て行く、涼夏は不思議に思い首を傾げた。 また何時もの考える癖、兄の流綺(リュウキ)は所謂頭脳派な男の子でクラスでも女子には人気。 頭が良くて、成績も優秀。私はと言えば普通位、けれどそのせいか周りは兄に対して妬む人物も少なくはない。 人気者、けれど敵が居ないのは涼夏。似ている様で違う、流綺の少し意外な一面は妹である彼女にとっては少々心配だった。 「また何か企んでる、お兄ちゃん大丈夫かな?」 かなり飽々とする、しかし彼はこう言った性格で涼夏は何時も話しに流されてばかりなのだ。 世間体で言うにシスコンと、妹想いの兄と友人から噂されてしまう程。だがそのギャップがあるからこそ、流綺独自の性格は極めて分かりやすい。 ため息を吐き、一度同じ体勢だった為に凝った肩を指先で軽めに解した。そして手元のリモコンを持ち、電源を切る。 「涼夏も大変ねぇ、でも流綺は自分なりにあなたの事を考えてくれてるみたいよ?」 「お母さん、あのね。流綺の気遣いが小判鮫みたいに引っ付くから、どうにも嫌やなの!」 我ながら酷い言い様、しかし表現は合っていると思う。そして私は母には兄の事を、名前を呼び捨てにして話す。これは幼い頃からの癖、結局は互いに気遣ってばかりなのだ。 まくし立てながら、愚痴を溢して涼夏は早々にと階段を半ば苛立ちながらも駆け上がって行く。幸い兄は外出し、先程の会話も聞こえはしない。 そんな行動にすら抜かり無く、涼夏は緻密にこうして常に周りを気にしながら話す。其れが彼女の個性、だがたまに思いが爆発する。 徐々に怒りも、冷めて行く。 丁度その時、扉を叩く音がして私はハッとしながら振り向いた。矢先、木製の扉はキイッと床を擦る音を立てて開く。 視線の先、捉えたのは数枚は有ろう何かのチケット。絵柄は船が描かれ、特別入場券と書かれていた。 兄の仕業だ、また無理矢理に私の願いを叶えようとこんな真似を。何処に行っていたのかと思えば、まさかテレビで放送していたあの船の入場券を入手してきている。 こればかりは、仕方無い。 「お兄ちゃん、ありがとう!」 「友達と、行っておいで」
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