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「そろそろ行くか、って何であいつら歩き回ってんだ?」
「本当だ。何か迷ってない?」
カフェの窓越しに見覚えのある二人の少年の姿に、私達は苦笑を浮かべながら様子を伺う。待ち合わせていた友人の彼等は、海を横目に漂うかの様に歩き回る。
まるで、徘徊している警備員みたい。そう涼夏が呟いたと同時に、カフェの扉がカランッと音を鳴らして開く。
一方で、先程の言葉に吹き出している響を遠目に二人の少年は顔を見合せ失笑を浮かべた。絶妙のタイミングに、私は唖然と立ち竦む。
「涼夏(リョウカ)達、こんな所に居たんだ?たくっ、此方はこいつのせいで迷子三昧だってのに……」
「あはははっ、何かごめん。人混んでてさ、危うく東京方面行く所だったわ」
笑い事では済まない気が、彼以外の三人がそう思いながらもこの場に居た誰もが其れを口に出せない。爆笑していた響でさえ、徐々に表情をひきつらせる。
飲み終えたグラスは、氷が溶け始めカランと乾いた音を立てた。店員や客も会話を聞いていたのか、一瞬少年を視やると何事も無かった様に各自が行動を再開し出す。
私も、聞かなかった事にしようと伝票で先に会計を済ませ。早々と店内を後に、扉を開けて飛び出した。
顔から火が出る程恥ずかしい、ふとカフェの方を振り返ると後から三人が追い掛けて来る。
方向音痴も大概に、店内を出た瞬時に響は苦笑混じりにそう注意を促す。一見ふざけている様にも見えるが、彼なりの気遣いだった。
「そうだよ海都(カイト)気を付けてくれなきゃ、此方が迷うつーの!」
「お前は、語尾がキモい……」
響の容赦の無い言葉に、若干チャラい金髪の少年は失笑しながら顔を俯かせる。隣では涼夏が必死に慰めようと、肩を叩いていた。
海都は、悪びれた様子も無くけらけらと愉快そうに笑っている。こうして話す時間も、と私はふと考えかけた所で思い出す。
一人、明らかに足りない。
大和撫子(ヤマトナデシコ)の様、着物が似合いそうで黒髪が背中位にまであり。整った顔立ちに、蒼い瞳の彼女が居なかった。
白のショートパンツに、藤色のシャツを着た少女の姿は無く。涼夏は思わず周囲を見渡し、訝しげな表情を浮かべる。
もう一人とは刃吽迩真依(ハオンジマイ)私達の友人の一人で家は先祖代々伝わる由緒正しき住職、所謂巫だが。滅多に袴姿を見た事も無く少々引っ込み思案な性格だった、多分人見知りな為に今回は来なかったのだろう。
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