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昔はよく見ていた鏡はめっきり見なくなったのは何年前からなんだろう。トモキと別れて30年が過ぎたのだと唐突に思い返す。白髪まじりの髪にシミだらけになった肌は年齢を嫌でも感じさせられる。
何もすることがない、病室の真っ白なベッドの上。シンとしたその空間でふと猛烈な孤独感に襲われた。
1人じゃない、でも足りない。
“トモキと別れないでください”
トモキ。30年前に捨てた人の名に心が掻きむしられた。
「……ああ……」
名前を口に出すのもはばかられた。私にはそんな資格なんてない。あれからずっと1人でいたわけじゃない。離婚したけど一時は結婚もしていた。
彼は最後までいい人だった。私の心の中に住むほかの男の影に気づきながら受け入れてくれていた。
でもダメだった。私は無意識にトモキの面影を追いかけていた。同じたれ目。でも違う。トモキの方が甘えん坊で、たまに覗かせる独占欲が激しかった。私のことを真っ直ぐに見つめていた。深く。
トモキの消息は不明。私と別れた後に海外に行ったことくらいしか知らない。
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