1回目

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トモキは有能だった。なのに才能をドブに捨てようとしていた。10歳年上の私の年を気にして、海外の研究室からの誘いを蹴ろうとしていた。 だから別れを告げた。LINEをブロックした。着信拒否した。 30年経った今だって、トモキはまだ52歳。私はもう還暦を過ぎた。年の差は変わらない。いい人生を送っていると信じたい。きっとトモキはいいお父さん、いいおじいちゃんになっている。どこかできっと。だって彼は子供が好きだったから。 ≪ユキさん、見てみて。俺の甥っ子なんだ。めちゃくちゃ可愛いでしょー≫ スマホの写真を見せるあどけない笑顔。私の中のトモキは22歳の大学生で止まっている。 幸せな思い出だけを支えに生きていこうと思っていたのに、病床について死と向き合った私はずいぶん欲張りになってしまったみたいだ。 早死にしても仕方ない。無理をし過ぎた。でも一つだけ心残りがある。
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