源平合戦

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「そろそろ店を開けるので、よろしくお願いします」 「わっ、わかりました」 それだけ伝えると、詩輝さんは首元のバータイプのシルバーネックレスを光らせ、何事もないように奥へ戻っていった。 「はぁーー、慣れない……」 私は詩輝さんが消えていったほうを見つめ、一人小さく息をついた。 藤原詩輝(ふじわら しき)。 なぜかオーナーがいないこの喫茶店のオーナー代理をしている、私より一つ年上の24歳の男性。 真っ黒な髪と、同じく真っ黒な瞳は、目の前にあると全てを見透かされそうで目を逸らしてしまいたくなるくらい、どこか恐怖心を煽る。 加えて左流しの前髪はやたらと長く、完全に片目は隠れているし、服装だって首元がユルユルのシャツにロングパーカー。 失礼だとは思うけど、一言で表すなら“不気味”。 私は、そんな詩輝さんに完全に怯えてしまっている。 さっきだって、どうにか会話をするだけでやっと。 「詩輝さん怖すぎ……」 絶対本人に言えないけれど、私は毎日そう思いながら仕事をしている。 こんなに怖い思いをしてまで、どうして私がここにいるのか。 それは今からおよそ一ヶ月前に遡る。 その頃の私は、仕事でも私生活でも、何もかも上手くいかない挫折感に苛まれて、毎日落ち込んでいた。
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