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初めての会話
初めての会話
「こちらは、NTT伝言ダイヤルです。6桁から10桁の番号を押し、最後にシャープを押してください。」こうして始まるガイダンスに、高校生だった僕は胸の高鳴りを抑えられず、手が震えた。手始めにまずは12345678と入れてみた。「暗証番号を入力して下さい」ここは1234だったよな。その位は覚えてる。「新しいメッセージからお伝えします。14時20分のメッセージ。」ちらりと時計を見た。メッセージ再生開始まで2秒程度の時間なのにカップラーメンでも作れるんじゃないかと思う位長かった。「こんにちわ。一人暮らしの19歳の大学生です。今日は彼に振られてしまって家で寂しいです。誰か慰めてください。番号は、04**・・」まさかの自宅番号。学校のカバンから急いで筆箱を取り出し、全く役に立ってない歴史だったかのノートの最後を引きちぎり、走り書きした。当時は女性も比較的気軽に自宅の電話番号を吹き込んでいた。今のように携帯など無いし、他に連絡手段が無かったというのもあるが、今ほどすさんでいない時代だったからというのもある。その後のメッセージなんてどうでも良かった。初めての経験で女子大生の番号を聞いちゃったんだ。掛けない奴はいないだろう。急いで左手で公衆電話のフックを叩き、出て来たテレホンカードを挿入口に乱暴に突っ込む。市外局番が同じだから同じ市内だ。近かったら逢えるかもしれない。番号を叩き、一回目の電話をする。 「プーッ、プーッ、プーッ」くそっ、話中だ。キャッチが無い時代だったのでそんなの普通だった。先を越されたか。話し始めたらきっと相当長いだろう。ここは間違って切っちゃう奴がいたらいいな、等と考えながらめげずに何度も黙々と番号を叩いた。急にそのペースを崩すかのように、一瞬の無音の後呼び出し音が聞こえた。 「プルル・・」朝の朝礼で倒れる女子ってこういう状態なんだろうか。自分の目の前が一瞬白くなり、なぜ呼び出し音が鳴っているのか理解出来ない。その位自分は興奮していた。「ガチャ」 「・・。もしもし?」僕から見たら大学生は年上のお姉さん。話す機会など無い相手と今こうして電話で話をしている。声は可愛いが、どこと無く声に張りが無い。「あっ、も、もしもし・・」
「はい」
「はじめまして・・あの、伝言聞いたんですけど・・」
「あ、はい・・」
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