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「事故って、雨宮さんが、起こしたものじゃないんでしょ?」
「違う。事故自体は、不可抗力だ。最初の事故は、工事用クレーンが、ビルの上から、落ちたことなんだからな。雨宮さんに責任があるはずがない。
落ちたクレーンだがな、そいつは、交差点の車を何台か巻き込んで、被害を拡げたんだ…。
親父は、その時点で、巻き込まれて、大怪我していたそうだ。
一方の雨宮さんは、交差点の事故を避けようとしたトラックが、突っ込んできて、それに跳ねられる寸前、母さんに助けられた…結果、雨宮さんは、助かって、母さんは命を落とした。
助かった雨宮さんは、軽い怪我ですんだけど、頭を打っていたらしくて、数日間、意識が戻らなかったそうだ。」
「あのさ、そこまでの話を聞いたら、どう考えたって、雨宮さんの責任じゃないってことになるよ。実際、そうだろう!」
「そうだ。責任はない。…でもな、雨宮さんは、そうは、思わなかった。
二人が、相談あるから会いたいって言った時に、自分の都合で、会う日を事故の日に変更したんだそうだ。だから、もし会うのが、最初に親父が提示した日だったら、事故にあわなかったんじゃないのか…何故、変えてしまったのか…。
更に、母さんが、自分のために命を落としたことが、かなりのショックだったみたいでな。
彼は、自分のせいだって、精神的に自分で自分を、追い詰めてしまったんだ。
そんなときに、祖父さんが、見舞いに来た。
普通なら、怪我の見舞いに祖父さんが、出ていくことはない。余程、重要な人物でない限り、隆司叔父さんか、芳樹叔父さんに、代理をさせるのが常だったからね。なのに、二人を引き連れてまで、見舞いにいってるんだ。
彼は、元々、母さんの婚約者だ。唯一、自分の眼鏡に叶った男だった訳じゃないか。それに、娘が、自分の命と引き換えにしてまで助けた命だ。助けることに、意味があったはずだと考えたって、おかしくないだろう。
祖父さんは、雨宮さんに、母さんに助けられた命を、無駄にするな。大切にしろ。そう言いたかったんだろうな。そして、二人の死に関して、責任はないと言ってあげることで、彼の心を助けようとしたんだと思うんだ。
そして、少しでも早く立ち直れるように、その後のことは、すべて国枝に任せて、雨宮さん自身の幸せを守るように言い付けた。
でも、それが、逆に彼を苦しめてるとは、祖父さんも思ってなかったみたいなんだよ。」
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