手紙

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「さて、お前達の祖父母が、駆け落ちして、俺が産まれたってのは、まあ、前から話してたことだから、今回の雨宮さんの話で、それ以外の疑問が、多少とも解消されただろう。 俺自身も、知りたかったことをいろいろと聞いて、納得できたからな。 その後の話だ…。 俺が、小学五年の時だ。その日はな、校外学習に行っててな、帰ったら、楽しかったことや初めて体験したこと、あれもこれも、親父や母さんに、話そうと思っていたんだ。 当時は、携帯なんてないからな、担任の先生にも、知らされなくて、両親の訃報は、学校についてから聞いたんだ。 その時のことは、ものすごくはっきり覚えてるんだが、他人事というか、テレビドラマか映画でもさ、見てるようだった。 当時にしちゃ珍しい女の教頭先生がな、顔面蒼白で、バスへ駆けてきた。担任が、横へ引っ張られていって、何かを耳打ちされてるのを、横目で見てたんだ。 翌日の予定だとか、連絡事項をみんなに伝えた後、解散ってなったんだけど、俺だけ、居残りを命じられた。 何事かと心配そうな顔してる蓮に、大丈夫だから、お前は帰れと担任が、言ってたな。 連れていかれたのは、校長室で、俺自身、一体何が起こってるのか、わからなくてめちゃくちゃ不安だった。そして、いつもは、ニコニコ顔の校長先生がな、ものすごく悲しそうな顔で言ったんだ。 『速水君、君のお父さんとお母さんが、事故に巻き込まれて、亡くなったと連絡がありました。 先生と一緒に、警察へ、二人を迎えに行ってあげましょう。』 さすがにな、もう五年生だ。言ってる意味はわかった。でもな、まだまだ親がいなくちゃなんにも出来ないガキだ…。 頭ん中が、真っ白になって、どう答えたらいいのか、どうリアクション取ったらいいのか、わかんねぇから、言われるままに、荷物持って、車に乗せられて…。 警察へ行くって行ってたのに、着いたのは、病院だった。今なら、警察病院っていうもんがあるって、わかるが、その頃の俺には、そんな知識はなくてな。変なのって、子供心に思ってた。 霊安室の中には、いくつもベッドが並べられてて、どれも白いシーツが掛けられて、周りで、何人もの人が泣いてたんだ。」
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