手紙

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「彰君。ここに寝ているのが、お父さんとお母さんか、確かめられるかな…。」 そう婦警さんに言われて、頷いた。顔に掛けられた白い布をその人がめくると、そこには、父さんが眠っていた。母さんも同じだ。…本当に、眠っているようにしか見えなかった。 触るとな、いつもの柔らかで暖かい二人じゃなくて、固くて冷たいんだ…。呼び掛けても、返事しないし…。初めて俺は、死ってものと向き合った。子供の俺には、重すぎる現実だった。 泣きじゃくる俺を、その婦警さんが、ずっとなぐさめてくれてたんだ。 その後のいろんな手続きは、到底、俺に出来るものじゃなくて、いつまで経っても、家に帰してもらえなかった。 そりゃそうだろう。俺じゃあ、手続きは出来ないし、誰もいない家に、未成年ひとり帰すわけには、警察も出来ないしな。 どれくらいたった頃かな、きちんとスーツを着た、一度も会ったことない男の人が、俺の前に、やって来たんだ。 国枝隆司と名乗ったその人は、なにかいろんな話をしてくれたけど、わかったのは、俺には、国枝彰造っていう祖父がいて、その人が、これからの面倒を全部見てくれるから、学校のことも、住むところも食事も、何も心配しなくていいんだってことだけだった。 俺じゃどうしようもなかった遺体の引き取りから、両親の死亡届、葬式の手配、近所への挨拶回りまで、全部やってくれた。 家に帰って来たのは、すべてが終わってからだ。 事故の日以来、俺は、ホテルの一室で留め置かれていて、そこで過ごしていたからだ。 がらんとした家に、隆司叔父さんと二人でやって来た。明日から、国枝の家で暮らすから、必要なものだけ持っていきなさい。そう言われて、本当にちょっとだけしか持っていけなかった。 俺は、いつでも取りに帰れるって思ってたんだがな…次は、なかったんだ。 知らない間に、家財道具一式、処分されて、家は売られてた。 俺の手元には、二人が、俺のためにってコツコツ貯めていた金の入った通帳が、一冊残った。 一番最後に記帳されてるのは、家が処分されたことで発生した金。親父と母さんの生命保険金。それと、二人の名義の通帳の金をまとめたものだって、あとで知ったんだ。」
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