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「それって、この前、言ってた、父さんが、簡単に使えないお金だよね。」
「ああ、そうだ。通帳があることは、大分落ち着いてから、鈴音が話してくれた。
鈴音が、預かってずっと管理してくれていてな、大学入学してから、これは、あなたのものだからって、渡してくれたんだ。
それ以来、お守り代わりだな。俺にとっちゃ。
話を戻そう。…俺は、国枝に引き取られたあと、知っての通り、後継ぎとしての教育を受けることになった。
みんなから、お坊っちゃん扱いされてもな、嬉しいことなんて何もなかった。今までの自分は、全部、切り捨てて、国枝の子供にならなきゃならなかったからだ。
祖父さんの前では、両親の話は禁忌だったしな。
学校の保護者会や面談は、忙しい祖父さんの代わりに、世話係の鈴音が、来てくれた。俺にとって、鈴音は、家族以上の存在で、それはそれで嬉しかったけど、やっぱり、死んだ両親に来てもらいたかったんだ。それが、子供心の本音だよ。
クラスメイトは、親子で笑いながら、時に口喧嘩しながら帰っていくんだ…それを見るたびに、辛かった。
だから、高校入って、蓮に再会してから、逃げ場ができた気がしてな。学校の中で、俺の親のことや、押さえ付けてる気持ちを、包み隠さず話せる相手が出来たことは、ラッキーだったんだ。」
「曾祖父ちゃんって、お父さんには、お祖母ちゃんのことを聞いたり、昔の話はしなかったの?」
「しなかった。たぶん、母さんのことを、忘れたくても忘れられないから、わざと、話をしなかったんだと思うよ。今思えばね…。
それに、俺との距離を測りかねていたところもあったしね。俺が、何もわからない赤ん坊なら、よかったんだけどな…。もう大人の顔色を見ることも出来る年齢になっていたから、どう接すればいいのか、迷ってたのかも知れないな…。
祖父さんは、本当に不器用な人だよ…。」
不器用なのは、何も祖父さんだけでなく、俺もだけどな…。
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