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「雨宮さんは、祖父さんが、次期当主の伴侶として、選ぶくらいだから、行動力、洞察力、判断力、そういうものが、ちゃんと身に付いていて、頭の切れる人なんだと思う。
だから、祖父さんに言われなくても、自分のいるべき場所、やるべきことは、わかっていたはずだ。
でもな、人間、理性だけで生きてる訳じゃない。何するのにも、感情が、絡んでくるんだよ。
雨宮さんは、自分の守るべきものを守って、やるべきことをやっていた。そうしなければならないと、知っていたし、そうしろと、祖父さんに言われたからだ。
だけど、彼の胸に刺さった棘は、抜けないまま、ずっとそこにあった。それを抜くためには、自分の納得する形のけじめを着けたかったんだ。
それが、二人の墓参りをする事だったんだ。でも、祖父さんは、墓の場所を教えることを否とした。
何度も頼んだけど駄目だったんだ。
そんな様子を、黙ってみていた多恵叔母さんが、助け船を出したんだ。芳樹叔父さんと一緒に、二人の墓へ連れていってくれた。
二人に聞こえてるのかどうかはわからない。それでも、雨宮さんは、答えない二人に、語りかけた。自分の思いの丈を、語りかけたんだ。
それ以降、国枝傘下の企業にいても、雨宮さんは、あくまでも、ひとりのビジネスマンとしての役割に徹していたみたいでね、国枝内部には、深く関わることをしてこなかった。…出来なかったという方が正しいか。
芳樹叔父さんを通して、隆司叔父さんとも繋がりが出来たみたいで、今度の訃報も、隆司叔父さんから、伝えられたそうだ。
お通夜の夜、ちょっとしたことで、昔のことを美佳叔母さんから聞くことになって、話を聞いているときに、雨宮さんが来たんだ。
さっき、話した母さんの駆け落ちの真相とか、三人とも知らないことが沢山あってね…。三者三様、思うことがあったわけさ。
俺は、雨宮さんに会う機会は、もしかしたら、今後、一生ないかもしれないって思った。たぶん、あの時は、雨宮さんも、そう思っていたかもしれないな…この手紙が、出てくるまでは。
手紙は、全部読んだ。手紙は、駆け落ち先から、東京へ戻ってきてから始まっていた。」
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