手紙

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「書かれていたことは、別に隠すようなことじゃない。読みたかったら、後で読めばいい。一つ一つ、書かれてることが違うからな、ここで説明することでもないし…。 手紙の行間から感じたのは、親父と母さんが、本当に愛し合っていた、思いやっていたってことだよ。そして、俺は、そんな二人に、愛情を沢山、注いでもらっていたってことだな。 国枝の目から逃れるためとはいえ、ひっそりと隠れるように暮らすことは、お嬢様育ちの母さんには、とても辛かったと思うし、かなり苦労していたみたいだ。 今まで、何もかもを使用人達がやってくれていた。それを、一通りの知識があるとはいえ、一から十まで、いきなり全部やらなくてはならなかった母さんは、大変だったと思うよ。 その上、俺が生まれて、子育てだってしなきゃならない。こういう時に頼れるのは母親だけど、自分の母親も、親父の方の母親も、既に鬼籍に入っていて頼れない。誰にも頼れず、手探りの中で、必死に俺を育ててくれたんだ…。 俺の成長を綴って、雨宮さんに報告する。それは、自分達の生活は、心配しなくても大丈夫っていうアピールだったのだろうな。だけど、時たまな、そうじゃないものがある。それは、親友である雨宮さんにだからこそ、吐露できた二人の本音だ。 俺は、貧しいながらも親子3人での暮らしを辛いとか、嫌だとか思ったことはない。あの頃が、一番幸せな子供時代だったと思ってる。それは、二人が、俺に限られた中で、目一杯のものを与えようと努力してくれていたからだ。俺には、どうしようもない厳しい現実や人の愚かしい部分なんかを見せないようにしていたんだろうな。 俺に見せなかったものは、ひっそりと二人で飲み込んだ。だが、二人も人間だ。耐えられない思いも時にはあるさ。そういうのを、こっそりと、雨宮さんに聞いてもらいたかったんだろう…。」
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