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「お祖父ちゃんやお祖母ちゃんは、雨宮さんに、何か訴えてたの?」
「基本的には、ないよ。だけど、中に、ひとつ、他とは少し中身の違う手紙があった…それは、親父から、雨宮さんに当てた手紙だった。
母さんが、二人目の子供を流産した後、子供を産めない体になってしまったみたいでな。病院で、母さんは、全部自分のせいだと泣いてたんだ。そんな母さんに、親父はなんと言葉をかけてやったらいいのか、わからずに、どうしようもなくなって、手紙を書いたみたいだ。
父さんの手紙で、弱音で締め括られている手紙は、これ1通だけなんだ。
俺は、弱い親父を知らない。そんな親父は、記憶の中にいない。いつでも、大きくて、優しくて、暖かくて、そして強い人だったからね。意外だった。
読んですぐは、ああ、俺にも弟か妹がいたかもしれないのか、いたらよかったなぁ。なんて、思ったんだけどな、…少し時間が経ったら、そういう気持ちよりも、親父の気持ちに共感出来ちまう自分に気付いた。
俺は、子供がいて、孫まで抱けてる。本当に幸せだ。だけど、ひとつ間違ってたら、ほんの少し対処するのが遅れてたら…俺も、親父みたいに千秋と向き合えなくて、どうしていいかわからなくて、道に迷っていたかもしれないって、気付いたんだ。」
「それって、母さんが、流産しそうになったってこと?」
「ああ、切迫早産っていって、母親の体の出産の準備が出来てないのに、赤ん坊が生まれてこようとするんだ。出血がなかなか止まらなくてな…。
一度は、覚悟したんだ。お前の命を諦める覚悟をな…。」
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