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鉛色の空から、とうとう、雨が落ちてきた。
雨だというのに、芳樹叔父さんの訃報を聞いて、沢山の人が、集まってきた。老若男女、様々な年代の人がいた。これは、叔父さんの人徳だよな。
もちろん、仕事関係の人も、大勢いたが、叔父さんのことを悪く言う人は、誰もいなかった。
なぜなら、仕事は、誰よりも率先して動いていたし、良いアイデアを出したり、成果を上げた者に対しては、年齢や肩書きに関係なく、きちんと評価してくれていたからだ。
現に、俺の周りにいる面子で、叔父さんの目にかなった者は、適材適所で、しっかりした足場を築いている。一番目立ってそう思うのは、叔父さんの丸岡書店に勤める横山と和樹だろう。
入社2年目、ポカやらかして首の皮一枚、今にも風前の灯火だった横山が、今や、文芸部初の女性部長だし、ひよっ子だった和樹も、鍛えられて、横山の右腕として文芸賞の責任者だ。
二人が、期待に応えられるだけの気概と実力があったからこそだけれど、組織の中で、あまり個性が強すぎると、睨まれるんだが、叔父さんが、影からサポートしてくれていたからこそ、続けてこられたことも事実だし、サポートがあったからこそ出来た仕事も山ほどあるんだ。
「ほら、そこ、きちんと椅子並べ直して。一々、言われなくてもそれくらい、考えな!」
丸岡の手の空いてる社員は、引っ張り出されていて、それを采配してるのは、当然、横山だ。
「和樹、弔電やら、花は任したからね。」
「昴さん、早々に届いてる分は、確認終わってますよ。こっちには、洋祐っていう強い味方がいますからね。」
「そりゃあ、心強い。洋祐、頼んだよ。」
「任せてくださいって。何て言っても、俺達、芳樹さんには、本当に世話になったんですから。きちんと、恩返ししないとね。そのためにも、しっかり送り出してあげないと、俺の男が廃ります。」
「さすがだねぇ。じゃあ、和樹は、速水さんに、お香典の責任者、決めてもらっといて。」
「了解!」
和樹は、今、見る範囲に彰がいないことを確認すると、探すために奥へ入っていった。
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