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親族用の控え室として用意されている部屋は、廊下の奥にあった。そこへ向かう廊下を歩きながら、美佳叔母さんの声が、廊下一杯に響いてるのを耳にして、溜め息が、またひとつ出た。
窓の外は、鉛色の空が、当分、晴れない気分のまま過ごすことになるぞって、伝えているみたいに、雨が、本降りになっていた。
「…入りますよ。…美佳叔母さん、外まで声が響いてますが、いいんですか?
あっちには、丸岡書店の社員達が、明日、明後日の用意に来てるんですがね。」
「煩いわね、聞こえて困るようなことは、言ってる覚えはないわ。
大体、なんで、彰が、采配してるのよ?あなたは、国枝から出ていった人間でしょう。」
「はい、その通りですよ。俺は、国枝から出ていった人間です。でも、それは、あなた方にとっても、もちろん、俺達にとっても、良かったことでしょう?
隆司叔父さんは、国枝の当主になったんですから、問題ないはずですが?
それと、今日の采配については、生前の芳樹叔父さんから、もしもの時は、頼むと、言われていましたからね。約束を守ってるだけですよ。
ねっ、多恵叔母さん。」
出来るだけ、淡々と、必要なことだけを話す。それが、美佳叔母さんという嵐を避ける最短コース。
何度も、同じ様なやり取りしてたら、自然と身に付くものさ。
「約束かもしれないけれど、国枝の一員として、然るべき人間に、采配は、してもらわなくては、駄目よ。格好が付かないわ。」
「…格好なんて、体裁なんて、私は、必要ないのお姉様。」
「何を言ってるの、あなたは、国枝の娘なのよ。国枝に生まれた限りは、死んでも尚、名前を背負っていかなくちゃならないのよ。わかってるの?」
「私は、お姉様みたいには、思わないわ。それに、どうして、彰をそんなに目の敵にするの?
美佳お姉様が、国枝の家を大事にしているのは、知ってるわ。だから、出ていった秋穂お姉様を憎らしく思う気持ちに、共感も出来るけど。それと、彰を、絡めないでちょうだい。」
珍しく美佳に反論する多恵の姿に、俺も、そして言われた美佳叔母さんも、ビックリしていた。
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