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「…私の気持ちなんて、あなたには、わからないわ、多恵。
…なにもかも、秋穂姉さんに、狂わされた、私の気持ちなんて。
…やっと、落ち着いた気持ちが、彰の存在があることで、また、かき回されるのよ。
…あなた達には、わからないわ。」
美佳叔母さんは、わなわなと震えていた。自分の中の激情を押さえ込むかのように、一言ずつ、静かに口に出す。
俺も馬鹿だ…。美佳叔母さんが、押さえているものを、暴く様なことしなくてもいいのにな…。
けれど知りたかったのだ。さっきの言葉といい、今の言葉といい、気になって仕方ない。
「…美佳叔母さん、教えてもらえませんか。」
「何を?」
「母さんのことを…。」
「今更、何を教えるっていうの?」
「…さっき、俺と向こうで会ったとき、叔母さんは、母さんが、あなたを裏切ったと言いました。今も、人生狂わされたって言いました。
俺は、今まで、あなたが、俺を目の敵にしてるのは、国枝の跡取りだって、祖父さんが、勝手に決めて、譲らなかったからだと思ってました。
それを、無下にして、自分の道を、勝手気儘に歩いてるからだと思ってました。
実際、俺は、そう言う生き方しかできなかったから、国枝の人間として、あなたに批判されても仕方ないと思っていた。
だけど、それだけじゃないんでしょう。
俺が、速水秋穂の息子だってことが、そもそも、許せないんじゃないですか?
あんな言い方、したことなかったのに、どうして、今なんですか?…教えて下さい。」
心の中の鉛色の空を、俺は、早く晴らしたくて仕方なかったのかもしれない。
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