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「…雨宮君と私が、婚約。それは、本決まりなんですか?」
「そうだ。お前は、国枝の跡取り娘なんだから、それ相応の男と、結婚してもらわなくてはな。
雨宮家は、華族の出だから、家柄は申し分ない。それに、徹也君は、次男だしな。婿に出しても構わんと、先方も言ってくれている。
なにより、お前の幼馴染みだろう、徹也君は。
結婚相手が、どんな男か、わからんより、わかる相手の方が、いいんじゃないのか。」
「…でも。私は。」
その日、朝食の後、お父様は、秋穂姉さんに、突然、縁談のことを話始めたの。
相手は、姉さんの幼馴染みの雨宮徹也さん。
確かに、二人は、昔から仲よかったよ。だけど、結婚ってなれば、話は別だよね…。
「…少し、考えさせてくださいませんか、お父様。縁談のお相手として、雨宮君が、決して劣っているとは思いませんけれど、今まで、普通のお友達としてお付き合いしてきましたのに、いきなり、結婚相手だと言われても、簡単には、気持ちの切り替えが出来ませんわ。
我が儘だと、わかっていますが、どうか、お願いします。お父様。」
「まあ、今日明日に、どうこうという事ではないからな。だが、お前に拒否権はないぞ、秋穂。
お前は、国枝の跡取り娘なのだからな。一番に優先しなくてならないのは、国枝の血を絶やさぬことだ。
当主の家に生まれた限り、長子は、家を継ぐ。それは、生まれる前から決められたことだ。
男なら、当主として、国枝を盛り立て、良い伴侶を得て国枝の血を継ぐ子供を設ける。
女なら、当主となるべく、今までのすべての柵を捨てて、婿入りしてくれる伴侶の側で、常に気を配り、盛り立てていくのと同時に、国枝の次の当主となる子供を授かり、産むことだ。
だからこそ、伴侶となる者は、良家の子息、子女であり、それなりに頭も切れる者でなくてはならんし、判断力も行動力も決断力も求められるのだ。
婿に能力がなければ、お前が、その穴埋めをしなければならないんだ。わかるな。
私も生まれる前から、そう決められ、そう育てられ、そう生きてきた。
我が子に、次の世代を任せるまでは、私が、国枝の規範だ。それは、わかっているな、秋穂。」
「…はい、お父様。」
秋穂姉さんは、そう答えていたけれど、なんとなく元気がなかった。
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