序章

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 赤石はいつもと違う。  無冠の流星と名前を聞いておきながらここまで暢気にしていること事態が間違っている。  無冠の流星は悪魔のような犯罪者だ。言葉巧みに人を騙して殺人犯に仕立てあげる。こうしている間にも近くで自分達を観察している可能性がある。桃磨は一緒に乗っている客全てが犯人のように思えてならなかった。だからこそ早めに事件の内容を知りたかったのだが、赤石は既に深い眠りに落ちていて話を聞き出せる隙はなかった。  揺り起こそうかと思ったが夕べは夜通し車を運転していたようなもので、疲れていることを知っていたので諦めた。  それでも桃磨の高ぶった神経は落ち着かないようで人が動く度に視線を走らせていた。  もしも無冠の流星がこの電車に乗っていて騒ぎを起こそうものなら直ぐにでも立ち振舞うつもりだった。  日本という平和ボケした大陸に生まれながら桃磨の心理はいつも戦地にある。気を抜けば地雷を踏みかねないその針積めた緊張は時間が経つに連れて鋭く尖っていくばかりであった。
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