序章

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 桃磨は赤石に答える気もしなかった。赤石の言うことは良く分かる。恐怖に怯える風景が好きなのが無冠の流星だ。今回なにを考えているのか桃磨は掴みきれていない。一度など人を操り桃磨を殺させようとしたり、逆に桃磨に人を殺させようとしたり様々な追い討ちを掛けて来たことがある。赤石もそれを知っていて変に深刻にならないよう務めているらしい。そんな気配を察して温泉に移動はしたが桃磨のもやもやが晴れたわけではなかった。 2  エレベーターで二階に降りて別館への通路に出る。春なので桜が見えた。秋には紅葉が見えるらしい。温泉は別館にあり、大浴場、小浴場、混浴風呂が備えてある。部屋によってはシャワーも完備されている旅館は明治時代からあるそうだ。  桃磨は通路から咲き乱れた垂れ桜を眺めていた。春雨が性懲りもなく降り続くせいで花は元気がない。せっかくの見頃の季節に集中的な雨を受けてはか弱い花は直ぐに散ってしまう。三月は弥生というが、ふいに命を絶った少女を思い出してしまう。そのたびに雨は嫌いだと桃磨は目を通路に向けた。  赤石はそんな桃磨の先を歩いている。無駄に気楽な足取りだ。いつ嫌な敵が動き出すかわからないというこの状態で桃磨は気楽にはなれなかった。
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