序章

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 桃磨が高校三年生となった春の真夜中に細い雨が降り出した。  夜二十三時。桃磨は自宅のリビングで何時ものように本を読んでいた。机にはすでに読み終わった本が積み重ねられ、お手伝いのミヨが入れた珈琲は冷めていた。  雨音には苦い思い出しか甦らなかった。現実から逃げ出すように桃磨は活字を見詰める。それでも春の柔らかな旋律には勝てずにうとうとし始めていた。  始業式が終わって次の連休はゴールデンウィークだ。  その頃は勉強が忙しい。  高校三年は大学受験と就職活動が終わらなければ休みはない。  今期も忙しさに忙殺されて何とはなしに時間だけが過ぎていくのだ。  桃磨は落ち掛けた瞼を開いた。  固定電話が金切り声を挙げていた。  携帯以外の連絡は大半が中庭に住んでいる元刑事、現在探偵という変な職歴になった赤石圭吾への依頼であった。
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