1章

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「三年前の冬に火災がおきて、別館が焼けたんです。そのあと工事をして本館と繋がる渡り廊下を作りました」 「家事の原因はなんだったのですか?」 「不審火でした。結局、別館の萩野間から赤山の間まで全焼し、死亡者までだしてしまったんです」 「大変な火事でしたね。お姉さんはその頃からこちらに?」 「はい。中居と受付を兼用して勤めておりました」 「なかなか大変だ。それで火事のあとどうなったのでしょうか。別館を見てきましたが風呂場も綺麗でした。とても火事があったようには見えませんでしたよ」 「建て直したんです。当時は経営に行き詰まりを感じていた女将さんが工事を反対したのですが、支配人が強行したんです」 「経営戦略でもあったんですかね?」 「計画中の事案があったんです。あの頃、旅館が傾いていたことは事実で別館を建て直すことに失敗したら皆路頭に迷うことになるところだったんです」
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