序章

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 結城イサコが電話を切った。久しぶりに嫌な電話であった。死神が笑ったようで気分が悪い。それとも読んでいた本のせいだろうか。殺意まみれの青年が好きになった女を次から次へと殺していく内容の推理小説だ。雨の日に読むには少し重すぎる内容だったかもしれない。桃磨は伏せた本に栞を挟むと読み終えた本を居間の隅にある棚に戻した。電話のせいで集中は一気に消えてしまったのだ。一度気を散らすと立て直しに時間が掛かるのが悪い癖であった。桃磨はソファに座り込むとテレビを付けた。しかし暗い話題ばかりが雑音みたいに居間を埋め尽くすだけで不快になるばかりだった。 「いい湯だった」  赤石がタオルで髪を拭きながら居間に入ってくる。既にパジャマ姿で眠る気満々とした格好であった。 「イサコ刑事からお電話がありました。眠れませんよ」  リモコンを操作しながら桃磨は言った。
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