1章

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 なんの準備もしていなかったことで赤石は混乱していた。  話を整理する必要があり、別館へ続く渡り廊下でいつの間にか足を止めていた。  別館に続く渡り廊下から寂しげに庭を眺める女が目に止まった。  もの思うことがあるのか視線が虚に見えた。  赤石は女に声を掛けようとするのをためらった。  赤石が介入できるほど簡単な問題を抱えているようには見えなかったのだ。  渡り廊下を子どもたちが走り抜けていく。家族旅行ではしゃいでいるのだろう。まだ幼稚園にも入らない子どもを両親が追いかけていく。旅館が平和であればあるほど女の存在は浮いていた。年頃は先ほど受付から話を聞いた人物と同じくらいだ。 「この旅館が家事になったあとずっと住み着いているんです」  受付がこぼした言葉を赤石は忘れてはいない。
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