1章

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 それても女に声を掛けようかとためらうのは赤石が刑事ではないことに匹敵する。  女が諦めたように赤石とは反対側へ歩いていく。  ますます言葉をかけるタイミングを失い、赤石は持っていたスマホに集中するふりをして女を遣り過ごした。  本当は女が住む部屋を確認するつもりだった。しかしそれも簡単にはできそうもない。なぜなら部屋にいても食事を頼むことができるのだ。女はその気になれば部屋を出ずに生活できるのである。だからといって混浴まで押し掛けるのも気が引けた。重要人物を目の前になにもできなくなったことに赤石は落胆の溜め息を吐いた。  スマホのデスプレイに通知番号が浮かんだ。  イサコからだ。 「はい? どうした? また無冠の流星か?」  赤石は咄嗟にそう訊ねた。 「赤石さん、進みはどうですか?」 「どうって。どうなんだろうな。無冠の流星がなにを考えているかさっぱりわからないことは確かだ」
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