2章

5/45
前へ
/221ページ
次へ
 赤石のパソコンに送るつもりだった。しかしパソコンに向かう気力もない。それでも起き上がり、机に置きっぱなしのパソコンの蓋を開いた。久しぶりに開いたパソコンには埃がたまっている。赤石と桃磨との行動も少なくなり、事件に遭遇しなくなったことはたしかであった。  旅館火災。  イサコはタグをパソコンに入力した。画面に連なった検索結果につい言葉をこぼした。 「こんなことって……」  旅館火災情報だけでも数万件以上ある。そこから目的の旅館の記事を絞り出す。  「あった」  新聞記事には火災のあらましが載っていた。  平成×年十一月二十二日深夜未明。○×旅館の厨房から出火した炎が旅館を焼いた。その日は風が強く、別館までを焼く騒ぎとなった。宿泊客の中には逃げ遅れたさいに軽い火傷を負った客もおり、救急車で運ばれた。鎮火後、消防から入った情報では幸いにも死亡者は出なかったということだ。  当時の旅館には八人の客が居た。いずれも面識はない。先に逃げ出した石沢港(35)に話を聞いたところ「炎はあっというまに広がった。生きていたのが不思議た゛った」と語る。同時に矢幅ホノリ(20)の話では「別館から逃げるときに誰かの悲鳴が聴こえた。自分も生きなければならないので逃げてしまった。でも誰も死んでなくてよかった」と恐怖と安堵が入り雑じった回答をくれた。
/221ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加