序章

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 事件は一日で解決しない。  桃磨は事件遭遇率から割り出した事実を呟いて風呂に入った。上がる頃には大方の話は終わっているはずで、何より高校生の桃磨にはさほど関係ない。大体にして一般市民を巻き込んだ事件を民間の探偵に依頼することのほうが間違いなのだ。そしてその探偵に収まっている赤石圭吾を自宅に住まわせた両親の決断も桃磨は未だに納得していない。こんな理不尽な境遇から桃磨は逃げ出したくて仕方なかった。だが、それでも自宅に事件はやってくる。事件が来る前触れに何時も死神は嘲笑う。このまま湯銭から出たくはない。現実から逃れて沈んで消えてしまいたい。溜め息を吐いた桃磨の頭に水滴は落ちてきた。雨粒よりも大きな水滴は桃磨の黒髪を湿らせる。  外から聴こえる雨の音色も先程より強いような気がした。  桃磨は風呂を上がり、髪を乾かし、歯を磨き、眠る準備を済ませて居間に戻った。  イサコがメモ帳を広げ、赤石がノートパソコンを開いている。 「話は終わりましたか?」  訊ねた桃磨に赤石が顔をあげた。 「桃磨。仙台行くぞ。着替えろ」 「はい?」 「桃磨君。無冠の流星が絡んでいるの。お願い。力を貸して」  イサコの真面目な訴えに、赤石の耀くような眼差しが桃磨に断ることをさせない。
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