裏っかわー2ー

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三、二、一、と数えながら、指の跡が赤く浮かび上がる顔を再び上げると、そこには先と変わらず、幅の広い黄色い嘴をパクパク動かす河童のようなものが、デデンと座ってこちらを凝視していた。 見世物小屋にでも迷いこんだのだろうか。 あ、そうだ。 どこかの百貨店のキャンペーンの着ぐるみだ、きっと。 それにしても、よく出来ている。 くすんだ緑色の布や頭上のつるりとした陶器の皿を見ていると、人間と変わらぬ等身の全身緑タイツは、「ヒ、ヒ、ヒ」と、小さな目を細めていやらしく笑った。 「水も滴るイイ女。良い眺めでさぁね」 その舐めるような目付きに、思わず着物の衿を併せる。 「エロ河童」 どんなキャラクター設定で着ぐるみをしているのだ。 ギロリと睨み付けると、河童は心外そうに真黒な鼻の穴を大きくした。 「あっしはエロガッパなんてぇ名前じゃねぇ。カラツっていう立派なんがあるんでさぁ」 「カラツ?そんなゆるキャラ知らないわよ。ちょっと、ジロジロ見ないでくれる?」 「見たって減るもんじゃなし。そもそもあっしはもっと、こう、ボーンと出るとこ出てるようなのが好みで…」 「失礼ねっ!」 足をひとつ、ダン!と踏み出す。 「そんなこと、好きな人ならともかく、初対面の全身緑に言われたくないわよ!」 「情緒不安定な紙っこでさぁね」 河童はお手上げとばかりに肩をすくめ、綺麗に緑色に塗られた顔で、ずぶ濡れの鐘里(しゅり)を見下ろした。 「姐さんは一体、人間にどんな(がん)を掛けられたんで?」 「はいぃ?」 この河童とは、会話が噛み合わない。 「(めい)を果たした紙っこは普通、もっと落ち着いてるんでやんすがねぇ」 不思議そうに首を傾げる、くすんだ緑タイツを見上げる。 ガン、メイ、カミッコ? 何かと勘違いしているのだけはわかる。 しかし。 今、この状況この時点で、鐘里(しゅり)にとっては。 首を傾げたいのは、こっちの方だ。 だいたい此処は一体、どこなのだ。 河童は「大正(たいせい)メトロへようこそ」なんて言っていたけど、寒々しいあの和菓子屋とは似ても似つかない。 そもそも、自分は夫を探しに来たのに。 ……そうだ。 河童から視線を外し、背筋を伸ばす。 こんなのに構ってる場合じゃない。 もしかしたら、一刻を争う状況かもしれないのに。 彼を、(あらた)を探さねば。 気持ちを切り替える為に、鼻から息をしゅっと吐いた時、背後で男の声がした。 「カラツ!」
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