第16話

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しかし、黒川の右肋骨下に深々と刺さっているサバイバルナイフを見ると、本当にこのままにしておいて大丈夫なのだろうか、とハヤブサを疑う気持ちが僅かに湧いてきたのだった。 「臓器が損傷していた場合は危険だ。ここでは止血も出来ないし、輸血も出来ない。ここからヘリを飛ばしても病院に1時間では着けないだろう」 ハヤブサは、助かるとも、助からないとも言わなかった。その言葉は既に何度も同じ現場を見てきたかのような重い響きがあった。絶望的状況であると言われた気がした。 アサ子は息も出来ないような暗い圧迫を胸に受けた。 黒川の救命には一刻を争う。 しかし、今ならば逃げられる。 ただ、アサ子が逃げれば、その騒ぎで黒川の輸送が遅れるかもしれないのだ。逃げるからには、生死の境目にある黒川を死の淵に突き落とす覚悟で逃げなければならない。
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