第16話

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アサ子は迷った。 もし、黒川を最善の速度で病院に送り届けたとして、黒川は本当に助かるのか。手遅れだったということになってしまった場合、逃げておけばよかったと後悔しないだろうか……。 自分の都合に合わせた想いが巡り始めたとき、アサ子は汚い心が自分の胸の内にもあったのだと自己嫌悪に陥った。 しかし、頭の中では自分は逃げているのに、現実の足は地面に縫いつけられたかのように動かなかった。 心と体が切り離されるような落ち着かない感じは、自らの足でヘリに乗るまで、つねにアサ子の隣にあった。 唯一の希望は、アサ子の刑が執行されるまでに、礼二が捕まってくれること。
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