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「お嬢……さ……ん」
ヘリが離陸すると、黒川が呟いた。
担架に寝かされた黒川の顔色は著しく悪い。
「喋っても大丈夫なの?」
アサ子はシートベルトを外して、黒川の傍に近寄った。
メインローターが風を切る音は思いのほか喧しく、耳を近付けなければ黒川の声が聞き取れなかった。
「訊きてぇ……ことがあるんだ……」
「何?」
声が弱々しいからだろうか。
何を訊かれても正しく答えようと思った。
「今のまんまじゃ……刑が執行される……。妊娠……した気配はねぇか……?」
「わからない……。普通の生活が送れてたわけじゃないもの。食べたことのないものばかり食べてたし、調子がおかしいのはいつもだったから……。ごめんなさい、本当にわからない……」
言い訳のような言葉が出た。
黒川は解っていたように頷いた。
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