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「いいか、よく聞け……。妊娠してる場合、刑は執行できねぇ。進藤 礼二が……捕まるまで……妊娠の……可能性がある……と引き延ばせ……」
アサ子は何度も頷いた。
黒川がそれを話すことに、全力を注いでいるのだと感じたからだ。息も絶え絶えに、それを伝えてくれる黒川の優しさを受け止めると、胸から熱い何かが溢れた。
「わかった。私は頑張るから、黒川さんも気をしっかり持って!! こんなことで死んだりしないでしょ? お願いだから生きて!!」
「俺ぁ……疲れた……。寝かせ……てくれ……」
黒川はアサ子を見ずに目を閉じた。
ぜんまいが切れた人形のように、カクンと頭を横に向けると、ぴくりとも動かなくなった。
強く手を握りしめると、やけに冷え冷えとした生気の無さが伝わってきた。
「ウ……ソ……。嘘でしょ? 黒川さん起きて! 嫌よ、死なないで! 黒川さんッッ!!」
黒川は返事をしなかった。
一部始終を見ていたハヤブサはアサ子の肩を優しく掴むと、止せと言わんばかりに首を振った。
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