拝啓 僕。

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夕暮れに染まる近所の公園。 僕は幼馴染の女の子(あかり)に、告白された。 世間話のついで、という感じのその告白は恥ずかしさを紛らわすためか。 突然の出来事に僕は大変驚き――はしなかった。 何故なら、こうなることは知っていたからだ。 事前に頭の中で入念な準備はしていたけれど、実際に直接告げられると、その破壊力は凄まじかった。 理由は簡単。僕はあかりのことが好きだからだ。おそらく、彼女が僕を好きになるずっと前から。そして、その度合いは彼女よりもずっと深い。 平然を装っていたが、僕は何度となく夢を見ていたことが現実に起こっていることに、胸の内では心が震え上がっていた。 だが――、残念なことに答えは決まっている。 「……ごめん。付き合えない」 「……そ」 振られちゃった、と苦笑いを浮かべ、お互いの間に立ち込める重い空気を、あかりは吹き飛ばそうとした。 そんなあかりの顔を見ていられなくて、僕は下を向く。指の爪が手のひらに食い込んでいることに、その時気付いた。 あかりはブランコの鉄枠に腰を下ろすと、 「正直さ、結構自信あったんだけど」 「ごめん」 「謝んないでよ」 「……ごめん」 まるで呪いをかけられたかのように、僕は同じ言葉を繰り返してしまう。 そんな僕を見かねてか、あかりはため息をついた。 「まあ、今日のことは忘れて……って言っても無理かもしれないけど、別に気にしないで今まで通りで」 「うん、分かった」 あかりは夕日に背を向けて、ゆっくり帰って行った。 去り際、また明日、と言った彼女の声は少し濡れていて、僕も思わず泣きそうになる。 あかりは付き合わない理由を、僕に聞いてはくれなかった。 何通りも考えていた僕の言い訳たちは、頭の隅っこで居心地が悪そうにしている。 そう。できることなら、僕だってあかりと付き合いたい。 「これで、よかったんだ……」 すでに星が輝いている夕焼けの寒空を見上げて、僕は自分に言い聞かせるように呟いた。
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