勇者と

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「こんにちは。 ギルド『深緑の玄武』から来ました、ミツル・マサキです。 知ってるとは思いますが勇者です」 笑顔で手短に自己紹介を済ませると、突然剣を鞘に納めた。大半が謎の行動に困惑していると、視線と皆の間抜けな表情に気がついたのか半笑いで説明を始めた。 「僕、人は殺したくないし、斬るということにも慣れてないので剣は納めてお相手しますよ」 「「「舐めてんじゃねぇぞ、クソ餓鬼がぁぁ!!」」」 「聖剣で斬る価値もない」と遠回しに言われたと感じたのだろう、血の気の多い十数人が自分の獲物を手に飛び出した。 「『ハイドロ・プリズン』」 血気盛んな男たちを前に臆することもなく、ただ冷静に魔法を紡ぐ。 右手に生成された小さな水の玉は男たちに向かっていく途中で急激に大きさを増し、丁度人一人収納できるほどの大きさになる。 飛び掛った十数人はあっという間に、水の玉で作られた牢に捕らえられ抵抗する意思を削がれる。 一人一つの水牢は一つまた一つと合わさっていき、最終的に一つの大きな牢となった。 捕らえられた者は溺れる苦しみから逃げ出したいようで、必死に水の玉の中で手で水を掻き、足をばたつかせる。 しかし、残念なことにこの水の牢は外側から中心へ向かって絶えず水が流れている。 従って彼らがどれだけ足掻こうが、脱出不可能なのである。 もがいても、もがいても手は水を掴むだけであり、決して牢の外へは出られない。 次第に暴れる元気、というより生命力が失われつつあるのか皆一様にして水死体のごとく浮き始めた。 「もうやめてくれ!死んじまうよ!」 仲間の見るに耐えない姿をこれ以上見てられないようで、一人が叫んだ。 「え!?死んじゃう!? 『か、解除』!!」 水が弾け、中にいた者が続々と地面に打ち付けられる。
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