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「また会えるかな?」
モノクロの記憶の断片で。
その少年は泣きながら、微笑んだ。
"SとYの答え"
今週末は、どうやら大荒れになるらしい。
『台風〇号は、27日未明にはA県に上陸すると見られ…』
ブチッ。
少女が、テレビを消す。
何も映らないテレビ画面をぼんやりと少女は見つめる。
「…台風は嫌いよ」
少女蛍(ホタル)は、抑揚のない声でそう言った。
彼女の後ろには、少年亮平(リョウヘイ)がいた。
「怖いの?」
亮平は、彼女の背に向け、優しく声をかけた。その言葉を聞き、蛍は振り返る。
「怖いのは、亮平でしょ?」
「は?」
「言ってたじゃない、昔。台風が怖いって」
蛍の、過去の記憶。7歳くらいの時の記憶だろうか。
同じくらいの年の少年が、泣きじゃくりながら蛍の洋服をつかむ。
天気は台風で大荒れ。近くに雷が落ちたらしく、停電までしている。
薄暗い部屋の中、雨音と少年の泣き声が響く。
「ほたるちゃん、僕、怖いよ…」
「大丈夫。家にいれば安全だから」
「雷だって、鳴ってるし…」
「×××君、泣かないで」
「だって…だって…」
「ほら、泣かないで。ほたるがいるから、大丈夫。ね?」
「蛍、それは…」
亮平の声で、蛍は現実に戻る。
「ああ、ごめんなさい…」
亮平の困惑した顔を見て、蛍は目を伏せた。
「"違う人"の、記憶だったかもしれないわ」
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