SとYの答え【前半】

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「あの町に、一度戻らないか?」 その一言に、蛍は動きをぴたりと止める。 「どうしていきなり。嫌よ。あたし、お母さんと不仲なんだもの。」 「知ってる。だから、無理に実家に帰れって言ってる訳じゃない。何なら俺の実家に泊まればいい」 「もう、なんなのよいきなり…。別に今更、用事もないんだし…。実家に帰るなら、一人でどうぞ?」 「違うんだ、聞いてよ蛍」 「何」 「そろそろ、記憶に決着…つけた方がいいんじゃないか」 蛍の背を、冷たい汗が伝う。明らかに動揺していた。 蛍は、亮平にそれを気付かれないよう、冷静を装った。 「…そんなの亮平に関係ないでしょう。それに。"彼"の情報を何一つ教えてくれない亮平も亮平よ。あんたが教えてくれさえすれば、ちょっとくらい思い出すかもしれないのに。あんた勝手なのよ」 「ごめん。それは、"彼"に口止めされてるんだって。」 亮平は済まなそうに言った。 「だから、何なのよそれ…。訳わからない」 冷静さを保てなくなり、蛍は苛立たしげに言い捨てた。 「とにかくあたし、行かないからね」 バッグを拾い上げ、玄関を出て、すたすたと蛍は歩き出す。後ろから、慌てて亮平が追いかける。 「待てよ、どこ行くんだよ」 「帰る」 「さっき来たばかりだろ」 「うっさい」 「機嫌損ねたのなら謝るよ」 「…」 蛍は、足を止めた。そして、振り返り、亮平を睨み付けた。 「ねえ亮平。ひとつ聞いてもいい?」 「え?」 「そこへ行けば、"本当に"記憶を取り戻せるの?」 亮平は、すぐに頷くことができなかった。 「きっと…、きっと戻るよ…」 「じゃあ、」 蛍は、一段と強い声で尋ねた。 「"彼"には、会うことができるの?」 「それは…っ」 亮平の表情が曇る。
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