SとYの答え【前半】

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蛍は、大きくため息をついた。 「KOACHのバッグ」 「へ…?」 亮平は、とぼけた声を出す。突拍子もなく発せられた蛍の言葉に耳を疑った。 「条件よ。もし、記憶も戻らず、"彼"にも会えなかったら。あたしにKOACHのバッグを買うこと。それなら、"行ってあげる"」 「何だそれ…」 「条件が呑めないなら、結構。あたしに構わず帰省でもなんでも一人でしなさいよ。余計なお世話なんだから」 KOACHは、高価な商品を扱うブランドだ。 ここまで言えば、引き下がってくれるだろう。蛍はそう思った。だが。 「………わかった。欲しいのは、KOACHのバッグなんだな?」 「あ、あんた…条件呑むのね…?」 「いいよ。それで蛍が来てくれるなら」 亮平は、蛍の手のひらに、何かを置いた。 「何、これ…」 「バスチケット。出発は、明日の午後だ。」 「え、ちょっと!早くない!?それに、今台風来てるのに…!」 「ほら、今日はもう戻って、明日の準備してこい。俺も今からするから」 「ちょっと、亮平…!」 ぱたん、と蛍の前で玄関のドアがしまる。 「…ほんっと馬鹿!」 蛍は呆れたように吐き捨てると、早足で家へ戻った。
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