4人が本棚に入れています
本棚に追加
蛍は、大きくため息をついた。
「KOACHのバッグ」
「へ…?」
亮平は、とぼけた声を出す。突拍子もなく発せられた蛍の言葉に耳を疑った。
「条件よ。もし、記憶も戻らず、"彼"にも会えなかったら。あたしにKOACHのバッグを買うこと。それなら、"行ってあげる"」
「何だそれ…」
「条件が呑めないなら、結構。あたしに構わず帰省でもなんでも一人でしなさいよ。余計なお世話なんだから」
KOACHは、高価な商品を扱うブランドだ。
ここまで言えば、引き下がってくれるだろう。蛍はそう思った。だが。
「………わかった。欲しいのは、KOACHのバッグなんだな?」
「あ、あんた…条件呑むのね…?」
「いいよ。それで蛍が来てくれるなら」
亮平は、蛍の手のひらに、何かを置いた。
「何、これ…」
「バスチケット。出発は、明日の午後だ。」
「え、ちょっと!早くない!?それに、今台風来てるのに…!」
「ほら、今日はもう戻って、明日の準備してこい。俺も今からするから」
「ちょっと、亮平…!」
ぱたん、と蛍の前で玄関のドアがしまる。
「…ほんっと馬鹿!」
蛍は呆れたように吐き捨てると、早足で家へ戻った。
最初のコメントを投稿しよう!