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「うあー、やっぱこういうの、私の柄じゃないや。後、ガーターベルトがキツくてやってられないわ。」
そう言って、彼女は腰を左右に回しはじめる。
このジッとしていられない性分で、僕は、現在の彼女の人格は「理香」と判断した。
「こんな締めつけられたら、ご飯食べれないじゃん!」
「食べる気満々なようだけど、新婦はそんな食事はとれないよ。」
「ったく、高い金払ってるのに・・でもまぁ、食事食べる時も私だったら、どちらにせよ静香のふりをしなきゃだし、そんな食べちゃいけないか。」
理香がポツリと呟いた「静香」というのは、彼女の主人格で、理香とは上手くやりあえている関係だ。
「静香は本当に、少しでも緊張したりすると、すぐ私と切り替わるよな。おーい!もう少しで式が始まるぞ、静香!」
そう言いながら、彼女は頬っぺたを軽く叩く。
「ごめん。私、静香と違って、人格切り替えるのが下手で。この先も、苦労かけるかも。」
「理香が謝ることじゃないよ。後、ドレス、スゴく似合ってる。綺麗だよ、理香。」
「それ、静香に言ってやってよ。」
「静香はもちろん、僕は理香とも結婚するんだよ。褒めて当然だよ。」
「え、無理。」
「・・結婚式の日に、ふられた。」
「あのさ、静香は、私やもう1つの人格に気を使ってそう言ったのだろうけど、そんな幻想論、実際無理だから。もしも本当に、3つの人格皆がアンタを夫って認めたら、お互いに嫉妬しあい、ドロドロの関係になるだけだからね。」
「・・・・。」
「それに、アンタ結局、結婚式までに灯と上手く話せずじまいだしさ。」
灯。
ごく稀に出てくる、人格だ。
「まぁ、私らもあの子のこと、上手く話せてないし、何より一番辛いことを背負わせちゃったから、アンタのこと、とやかく言えないけどね。」
立ち上がり、動きにくいウェディングドレスでわざわざ僕に近づいてしたことは、強めのデコピンだった。
「とりあえず、アンタが結婚するのは、静香だけ。それを忘れず、この先私たちと、未來を歩むんだよ?」
僕の思考に反したその言葉に、彼女から視線をそらし、うつむいて黙りこむ。
そんな僕に、理香は
「頑固者。」
と、呟いた。
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